肩こりのひどい話

「えっ!なにこれ,きのこかな?」秋も深まった頃,芝生の中にポツンと出ていたキノコを見た時の最初の印象だった。


 今から10数年も前になるが,色鮮やかな紫色のキノコと出会い,強烈な衝撃を受け,突然キノコに取り付かれ,「もっとキノコのことを知りたい。」と,休日には図鑑を5〜6冊肩にかついで野山を歩き回り,図鑑の重みが肩に食い込み,たちまち肩こりになってしまった。
 その後,仕事の関係で広島市に移り住むことになり,広島きのこ同好会に入会し楽しんでいたが,当時の上司が,幸か不幸か野鳥に大変親しんでおられ,「君,バードウオッチングに行かないか」と囁いた。これがまさに悪魔の囁き,肩こりの再発になるとは思いもよらなかったのだった。

 広島市から少し島根県よりのところに,三段峡という風光明媚な観光地があるのだが,そこの沢沿いの遊歩道を,上司に連れられ歩いていると,川の中に黒い鳥が潜っているではないか。ハトみたいな鳥が川の中を潜水しているのを見て,何とも表現のしようがなかった。「あれは,カワガラスという鳥だ」と,教えられても,あまりにも不思議な光景で「はぁ〜!」と言って見つめていた。
 さらに進むと,頭上から何とも華やかな鳴き声が聞こえてきた。「これはオオルリとといって,あの木のてっぺんで鳴いている。」と教えてもらい,双眼鏡で覗いてみると背中に陽が当たり青い色が光り輝いている。まさに,10数年前のキノコの出会いと同じ,いやそれ以上の衝撃と興奮を受け,その後1年間は毎週のようにバードウオッチングに駆け回り,山歩きにはほとんど行かなくなってしまった。
 首には双眼鏡,肩には図鑑5冊と望遠付きカメラをぶら下げ,体に疲れがたまって,またまた肩こりの再発である。


この1年間の間にヤツガシラ,ブッポウソウ,アカショウビン,ヨタカを間近に見る機会があった。これらの種はなかなか見ることができないので,バードウオッチャーの憧れの鳥,いわゆる「珍鳥」だったが,興奮度は今一だった。なにしろ,何が珍鳥なのか分からずスズメやヒヨドリを見ても,ヤツガシラやブッポウソウを見ても同じように喜んでいる超初心者なのだから。
最近は鳥の名前も少しは分かるようになったので,あまり肩こりもしなくなったが,山歩きを再開してからは,鳥やらキノコやら植物図鑑やらを持ち歩き,人の何倍も疲れていた。今でも,カメラと双眼鏡は必ず持ち歩いている。ただし,首からぶら下げると肩こりが再発するので,今はザックからぶら下げている。不必要に大きいマックパックの赤いザックを背負い,胸の前にカメラをぶら下げ,ザックにストックをくくりつけている人間を見たらたぶん私でしょう。

 

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