ウイックロンのシャツ

−これで少しは登山家の仲間入りをしたかな−

 山登りを始めて数年経つと,少しは知恵がついてきて,ウイックロンのシャツを購入した。
その時に思ったのが,
「これで少しは登山家の仲間入りをしたかな。」である。
登山でかいた汗を速やかに体外に排出してくれて,さわやかな着心地だと何かに書いてあった。

さて…....。
 購入するとすぐにでも使ってみたくなるのが,私の悪い癖なのだが,分かっていても自制心が利かない。
 当時住んでいた広島の窓ヶ山という双耳峰に,きのこ探しも兼ねて登ってみることにした。
 この山は東峰と西峰の二つの山頂を持ち,その間の大きなキレットが窓ヶ山の由来だったような気がする。

 わずか1時間ほどで登り切れる山なのだが....。

歩き始めてまもなく,日差しが強かったこともあるが,異常に暑く一歩足を踏み出すにもクラクラする状態になった。
「おかしいぞ?,前日,きのこ採集会に参加して深入山や臥竜山を歩き回ったせいかな?」
 お目当てのきのこは10月2日の低山では,時期が早いのかさっぱり見つからない。きのこでもあれば少しは気が紛れたのだろうが,失望感もあって,より一層暑さに苦しんだ。
 「ウイックロンのシャツは全然涼しくない」のである。今まで着ていた綿シャツの方がよっぽど涼しかった。

フラフラになり
「オレはもうこれ以上歩けない。」
と,そこに座り込もうとしたその時,手前の東峰に着いた。
「もう,西峰まで行けないよ〜!」
と,パートナー(妻)に泣きを入れたが,

妻は
「そう,じゃ,ここで休んでいて,私一人で行って来るから」と,サッサと行ってしまうではないか。
 いつも冷静沈着思考力十分な野鳥探見隊隊長は,
「オイオイ,ツメテーじゃネーカ。こんな病人をここに置いてさ。そりゃネーだろう。」と思ったが,この時は声を出す気力もなかった。

 もっとも,私の思考力なんてのは,いざとなりゃどっかにブッ飛んでしまって,何を始めるか知れたものじゃネーのだが。
やっ。これは,いかん,いかん,当時のことを思い出して言葉が乱暴になってきた。冷静沈着に!!

 その時はとにかく疲れてしまい,この場所で少し寝ることにしたのだが,見るとそこには昼寝をするのに,まことにもって都合の良い大石がある。
「これはいいや,妻が戻るまで取りあえずここで寝ていよう」
この時カラスが「アホゥ,アホウ」と鳴いていたような気がしたのだが.....。
20分ほどで妻が戻ってき,さあ,下山しようとするとき,なにやら顔がヒリヒリするなぁと思ったが,やれやれこれで帰れると思い,あまり気にも止めなかった。

もっとも下りも,暑くて暑くてしんどい思いをして下りてきたので,顔ヒリヒリどころではなかった。
 しかし,家に帰ってくると無惨なことに顔が真っ赤っか。まったく情けない。
最悪だったがこの怒りをどこにもぶつけられないのがまたナサケナイ話である。

さて...,
 そのウイックロンのシャツだが,その後の登山で,北海道の時は晩秋に,福島や秋田では初冬に着て歩き重宝している。
....????
そう。そのウイックロンのシャツは冬用だったんです。分からなかった私がバカでした。」
でも,シャツ購入するときチョット一言,店員さんが説明してくれたら良かったのに。
「広島の低山じゃ必要ありませんよ」ってね。

 

 

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